「10の姿って、結局なんのこと?」「5領域とどう違うの?」——保育の現場で、一度はモヤっとしたことがあるのではないでしょうか。研修で聞いたことはあるけれど、日々の保育とどうつながるのかがつかみにくい。そんな声をよく耳にします。
最初に大事なことをお伝えします。10の姿は、できたかどうかをチェックするための基準ではありません。子どもを見るときの「まなざし」を10通り示したもの、と考えると、ぐっと身近になります。
この記事で分かること
- 10の姿の意味と背景
- 3つの柱・5領域との関係
- 10項目それぞれの具体例
- 年齢別に見る育ちの芽
- 保護者への伝え方のコツ
一覧表もつけたので、全体像をつかみたい方はそこだけ見てもOKです。それでは、順番に見ていきましょう。
幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿とは?

「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」、通称10の姿とは、5歳児後半ごろに見られるようになる子どもの姿を、10の視点から具体的に示したものです。
ポイントは、これが到達目標ではないということ。「卒園までに全部できるようにしましょう」というリストではなく、保育をどの方向に向けていくかを示す道しるべです。地図でいえば、目的地の座標ではなく方位磁針に近いイメージですね。
そしてもうひとつ大切なのが、10の姿は幼稚園・保育所・認定こども園の3つすべてに共通して示されている、という点です。
| 施設 | 根拠となる基準 |
|---|---|
| 幼稚園 | 幼稚園教育要領 |
| 保育所 | 保育所保育指針 |
| 認定こども園 | 幼保連携型認定こども園教育・保育要領 |
どの施設に通っていても、幼児期に育みたい方向性は同じ。だからこそ、小学校へ橋を渡すときの共通言語にもなるわけです。
10の姿が示された背景と時期
10の姿が登場したのは、2017(平成29)年に告示され、2018(平成30)年度から施行された要領・指針の改訂からです。それ以前にはなかった、比較的新しい考え方といえます。
背景にあるのは、幼児期の学びと小学校教育をなめらかにつなぐという課題です。それまで、幼児期の育ちを小学校の先生に伝えようとしても、共通の言葉がありませんでした。そこで「こういう姿が育っていますよ」と具体的に共有できるものさしとして、10の姿が整理されたのです。
小学校に入った瞬間に子どもがリセットされるわけではありません。園での経験が、そのまま学びの土台になる——その連続性を大事にしよう、という思想が根っこにあります。
3つの柱・5領域との関係を整理しよう

現場でいちばん混乱しやすいのが、「3つの柱」「5領域」「10の姿」の関係です。似た言葉が並ぶので、頭の中でこんがらがってしまいますよね。ここで一度、すっきり整理しておきましょう。
育みたい資質・能力「3つの柱」とは
まず土台にあるのが、幼児教育で育みたい資質・能力=3つの柱です。
| 3つの柱 | 内容 |
|---|---|
| 知識及び技能の基礎 | 気づく・分かる・できる |
| 思考力、判断力、表現力等の基礎 | 考える・試す・工夫する |
| 学びに向かう力、人間性等 | 粘り強さ・思いやり |
これは幼児期だけでなく、小学校以降の学びにも一本の線でつながっている考え方です。
5領域と10の姿はどうつながるのか
一方の5領域は、健康・人間関係・環境・言葉・表現の5つ。こちらは保育のねらいと内容、つまり「保育者が何を大事に関わるか」を示すものです。
では10の姿は何かというと、5領域にもとづく日々の保育を積み重ねた結果として、子どもに現れてくる具体的な姿。この違いが分かると、一気に整理されます。
| 用語 | 位置づけ | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 3つの柱 | 育みたい資質・能力 | 目指す土台 |
| 5領域 | ねらいと内容 | 保育者の関わる視点 |
| 10の姿 | 育ちの具体的な姿 | 子どもに現れる姿 |
流れにすると「3つの柱(土台)→ 5領域(育てる視点)→ 10の姿(現れる姿)」という関係です。料理にたとえるなら、3つの柱が「おいしい食事をつくる」という目的、5領域がレシピや調理法、10の姿が食卓に並んだ料理の姿、といったところでしょうか。
10の姿の一覧表(早見表)

まずは全体像から。10項目を一覧にまとめました。
| No | 項目 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ① | 健康な心と体 | 心身を使って生活する |
| ② | 自立心 | 自分で考えてやりきる |
| ③ | 協同性 | 友だちと力を合わせる |
| ④ | 道徳性・規範意識の芽生え | 良し悪しやきまりが分かる |
| ⑤ | 社会生活との関わり | 地域や人とつながる |
| ⑥ | 思考力の芽生え | 考え、試し、工夫する |
| ⑦ | 自然との関わり・生命尊重 | 自然に触れ命を大切にする |
| ⑧ | 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚 | 数・形・文字に親しむ |
| ⑨ | 言葉による伝え合い | 話し、聞き、伝え合う |
| ⑩ | 豊かな感性と表現 | 感じたことを表す |
こうして並べると、体・心・人・環境・表現と、子どもの育ちがバランスよく網羅されているのが見えてきますね。
10の姿それぞれの具体例をわかりやすく解説

ここからは、10項目を一つずつ見ていきます。それぞれ「どんな姿か」と「園での具体例」をセットで紹介するので、明日からの見取りにそのまま使えます。
①健康な心と体
充実感をもって自分のやりたいことに向かい、心と体を十分に働かせる姿です。健康的な生活リズムを身につけ、見通しをもって行動できるようになります。
具体例
- 戸外で思いきり走り回る
- 汗をかいたら着替える
- 自分で身支度を整える
保育者は、体を動かす楽しさを味わえる環境を用意し、生活の流れを子ども自身が見通せるように支えます。
②自立心
身近な環境に自分から関わり、しなければならないことを自覚して、諦めずにやり遂げる姿です。「やってみたい」が原動力になります。
具体例
- 難しい積み木に挑み続ける
- 苦手な作業も最後までやる
- 自分で考えて行動する
大人がすぐ手を出さず、待つこと。この“待つ勇気”が、自立心をぐんと育てます。
③協同性
友だちと関わるなかで、共通の目的に向かって考え、工夫し、協力してやり遂げる姿です。ひとりではできないことも、仲間となら実現できると気づいていきます。
具体例
- ごっこ遊びで役割を決める
- 発表会をみんなで作り上げる
- 意見を出し合って解決する
ぶつかり合いも大切な過程。すぐ仲裁せず、話し合いを見守る関わりが効いてきます。
④道徳性・規範意識の芽生え
してよいことと悪いことが分かり、相手の立場に立って行動する姿です。きまりを守る必要性が分かり、自分たちでルールをつくる姿も見られます。
具体例
- 悪いことをしたら謝る
- 友だちの気持ちを想像する
- 遊びのルールを話し合う
「決まりだから」ではなく、「なぜ必要か」を一緒に考えることが芽生えを支えます。
⑤社会生活との関わり
家族や地域の人とふれあい、社会とのつながりを感じる姿です。園外の世界にも関心を広げ、情報を役立てようとします。
具体例
- 地域の行事に参加する
- 消防署や図書館を訪ねる
- お店やさんごっこを楽しむ
散歩で出会うあいさつひとつも、社会とつながる大事な入り口になります。
⑥思考力の芽生え
物の性質や仕組みに気づき、予想したり試したりしながら考える姿です。自分と違う考えに触れて、考え直す柔軟さも育っていきます。
具体例
- 坂の角度を変えて試す
- 水の流れ方を確かめる
- 友だちの案を取り入れる
答えを教えるより、「どうしてだろうね」と一緒に不思議がる関わりが有効です。
⑦自然との関わり・生命尊重
自然に触れて感動し、命あるものへのいたわりをもつ姿です。身近な動植物との関わりを通じて、命の大切さを実感していきます。
具体例
- 虫や植物を観察する
- 生き物の世話を続ける
- 季節の変化に気づく
飼育していた生き物との別れも、命を考える貴重な機会になります。
⑧数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
遊びや生活のなかで、数・量・形・標識・文字に親しみ、必要感をもって使おうとする姿です。学習ではなく、あくまで遊びの延長にあります。
具体例
- おやつの数を数える
- 積み木の形を比べる
- 友だちの名前を読もうとする
ドリルは不要。「何個あるかな?」という日常の会話が、いちばんの土台です。
⑨言葉による伝え合い
自分の思いを言葉で伝え、相手の話にも耳を傾ける姿です。伝え合うことで、言葉のやりとりが楽しくなっていきます。
具体例
- 経験したことを話す
- 絵本の感想を伝え合う
- 相手の話を最後まで聞く
保育者が丁寧に聞く姿勢そのものが、子どものモデルになります。
⑩豊かな感性と表現
心を動かす出来事に触れ、感じたことを自分なりに表現する姿です。表現の巧拙は関係ありません。
具体例
- 音楽に合わせて踊る
- 絵や工作で気持ちを表す
- 劇遊びでなりきる
「上手だね」より「楽しかったね」。過程を認める言葉が、表現する意欲を育てます。
年齢別に見る「10の姿」につながる育ち

ここで大切な前提をひとつ。10の姿は5歳児後半の姿を示したものなので、低年齢児に当てはめて評価するものではありません。
ただ、その姿は5歳になって突然現れるわけではなく、乳児期からの積み重ねの先にあります。ここでは「将来10の姿につながる育ちの芽」として、年齢別に見ていきましょう。
| 年齢 | 見られる育ちの芽 | つながる姿 |
|---|---|---|
| 0〜2歳児 | 探索する・愛着を築く | ①健康な心と体 ⑦自然 |
| 3歳児 | 自分でやりたがる | ②自立心 ⑨言葉 |
| 4歳児 | 友だちと関わり葛藤する | ③協同性 ④道徳性 |
| 5歳児 | 目的に向かい協力する | ③協同性 ⑥思考力 |
0〜2歳児にみられる育ちの芽
保育者との安心できる関係を土台に、身のまわりを探索する時期です。触る、なめる、たたく——その全部が学びの入り口。信頼関係そのものが、のちの自立心や協同性の土台になります。
3歳児にみられる育ちの芽
「じぶんで!」が増える時期です。できることが増え、言葉も豊かになり、自分の思いを伝えようとします。うまくいかず泣いてしまうことも含めて、自立心の芽が動き出しています。
4歳児にみられる育ちの芽
友だちとの関わりが深まり、同時にぶつかり合いも増える時期。「貸して」「いやだ」のやりとりを通して、相手にも気持ちがあることに気づいていきます。道徳性の芽生えが動くのは、まさにこの葛藤の中です。
5歳児にみられる姿
仲間と共通の目的をもち、話し合って役割を分担しながらやり遂げられるようになります。ここでようやく、10の姿として示された姿が具体的に見えてきます。
10の姿を保育に活かす4つのポイント

知識として知っていても、日々の保育にどう活かすかが本題ですよね。押さえておきたいのは次の4つです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 目標にしない | 到達度チェックに使わない |
| 遊びから捉える | 日常の遊びの中に現れる |
| 記録に残す | エピソードで書き留める |
| 職員で共有する | 見取りの視点をそろえる |
とくに大事なのが、10の姿をチェックリストにしないこと。「協同性、まだできてないな」という見方を始めた瞬間、それは子どもを測る物差しに変わってしまいます。
代わりにおすすめなのが、エピソード記録です。「今日、○○ちゃんが友だちの分まで椅子を運んでいた」——そんな短い記述に、10の姿のどの視点が見えるかを添えていく。積み重なれば、要録を書くときの何よりの材料になります。
そして、その視点を職員間で共有すること。同じ場面を見ても、気づく人と気づかない人がいます。「あの姿、協同性の芽だったね」と語り合える職員室は、それだけで保育の質が上がります。
エピソード記録から要録につなげる
日々の記録は、そのまま要録の下書きになります。書くときのコツは、評価ではなく事実と背景を残すこと。
| 書き方 | 例 |
|---|---|
| ✕ 評価で書く | 協同性が育っている |
| ○ 事実で書く | 役割を提案し話し合っていた |
「できた・できない」ではなく、その子が何に心を動かし、どう関わったかを書き留めておく。すると年度末に振り返ったとき、育ちのストーリーが自然と浮かび上がってきます。
慌てて書こうとすると、どうしても抽象的な言葉になりがちです。日ごろから短いメモを積み重ねておくことが、いちばんの近道になります。
保護者にどう伝える?家庭での活かし方

10の姿は専門用語が多く、そのまま保護者に伝えても伝わりにくいのが正直なところ。「道徳性・規範意識の芽生えが育っています」と言われても、ピンとこないですよね。
そこで役立つのが、日常の言葉への言い換えです。
| 専門用語 | 保護者への言い換え例 |
|---|---|
| 自立心 | 自分で最後までやろうとする |
| 協同性 | 友だちと力を合わせられる |
| 道徳性の芽生え | 相手の気持ちを考えられる |
| 思考力の芽生え | 工夫して試すようになった |
| 言葉による伝え合い | 思いを話せるようになった |
伝えるときは、必ず具体的な場面とセットにするのがコツです。「協同性が育っています」ではなく、「発表会の準備で、お友だちと役割を決めていましたよ」と伝えれば、その情景が浮かびます。
園だよりや連絡帳、個人面談も絶好の機会。「家庭でも何かしなければ」と身構える保護者もいますが、特別な取り組みは必要ありません。
家庭でできる関わり
- 一緒に料理や洗濯をする
- 今日の出来事を聞く
- 公園で自然に触れる
- 絵本を読んで話し合う
日常の中に、10の姿につながる場面はいくらでもある。そう伝えると、保護者もほっとした顔をしてくれます。
10の姿の覚え方|語呂合わせで整理

10項目もあると、覚えるのが大変ですよね。実習や採用試験を控えている方のために、覚え方のコツを紹介します。
ひとつは頭文字をつなげる方法です。
けん・じ/きょう・どう・しゃ/し・し・すう/げん・ぴょう
「健児、協同者、思思数、言表」と区切って唱えると、リズムで頭に入ります。
もうひとつは、意味のまとまりでグループ化する方法。こちらのほうが実践では役立ちます。
| グループ | 含まれる姿 |
|---|---|
| 自分について | ①健康な心と体 ②自立心 |
| 人との関わり | ③協同性 ④道徳性 ⑤社会生活 |
| 環境との関わり | ⑥思考力 ⑦自然 ⑧数量・文字 |
| 伝える・表す | ⑨言葉 ⑩表現 |
「自分 → 人 → 環境 → 表現」と外に広がっていく順番だと気づけば、丸暗記しなくても思い出せます。
10の姿でよくある誤解と注意点

最後に、押さえておきたい誤解を整理しておきます。
| よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 全部できないといけない | 個人差があって当然 |
| 評価の基準である | 評価基準ではない |
| 卒園までの到達目標 | 方向を示す道しるべ |
| 5歳児だけの話 | 乳児期からの積み重ね |
10の姿は、子どもを型にはめるためのものではありません。その子なりの育ちを、豊かに見取るための視点です。
すべての項目が均等に現れる子はいませんし、その必要もありません。得意なところが際立つ子もいれば、ゆっくり育つところがある子もいる。それが自然な姿です。
とくに気をつけたいのが、10の姿を意識するあまり、保育が「その姿を出させるための活動」になってしまうことです。協同性を育てたいからと集団活動を詰め込む——これでは順序が逆さまになってしまいます。
10の姿は、あくまで子どもの主体的な遊びの結果として現れるもの。保育者がすることは、姿を引き出すことではなく、子どもが夢中になれる環境を整えることです。芽を無理に引っぱっても伸びないのと同じで、育つ土をどう耕すかが本質だといえます。
よくある質問(FAQ)

現場からとくに質問の多いポイントをまとめました。
Q. 10の姿はいつから始まったものですか?
A. 2017(平成29)年告示、2018(平成30)年度施行の要領・指針から示されました。幼小接続を円滑にする目的があります。
Q. 5領域と10の姿の違いは何ですか?
A. 5領域は保育のねらいと内容、つまり保育者の関わる視点です。10の姿は、その積み重ねの結果として子どもに現れる具体的な姿を指します。
Q. 10の姿を評価やチェックリストに使ってよいですか?
A. 使わないでください。到達目標でも評価基準でもなく、子どもの育ちを見取るための視点です。
Q. 1〜2歳児にも10の姿は当てはまりますか?
A. 10の姿は5歳児後半の姿なので、低年齢児に当てはめて評価はしません。ただし、その育ちの芽は乳児期から始まっています。
Q. 保護者にはどう説明すればよいですか?
A. 専門用語を日常の言葉に言い換え、園での具体的な場面とセットで伝えると伝わりやすくなります。
まとめ

幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿は、子どもを測る物差しではなく、子どもを見る10のまなざしです。
「協同性が育っているか」と点検するのではなく、「今日のあの場面、協同性の芽だったな」と気づく。その積み重ねが、保育の質を静かに底上げしていきます。
そして安心してほしいのは、その姿はすでに、目の前の遊びの中に現れているということ。砂場で相談する声にも、虫を見つめるまなざしにも、育ちの芽はちゃんと宿っています。10の姿は、それに気づくためのヒント集なのだと思います。